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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(481) ボッチャの日本選手権で、パリパラ代表入りに3人が内定! 3月の最終予選に出場枠上積みを目指す

パリパラリンピックのボッチャ日本代表選手選考会を兼ねた「TOYOTA presents 第25回日本ボッチャ選手権」が1月19日から21日にかけて東京・墨田区総合体育館で開催されました。4クラスの男女個人戦の結果、日本ボッチャ協会が定めた規定により、3選手がパリパラ代表に内定しました。ボッチャ日本代表は最大10人で、3月にポルトガルで行われる世界最終予選などでさらなる代表枠獲得を目指します。

今大会で代表に内定したのは国際ボッチャ連盟の規定により2023年12月16日付の世界ランキングに基づいてパリパラ出場枠を獲得していたBC1/2チーム戦(脳性まひ・男女混合)に出場する3選手です(個人戦にも出場可)。まずは、「日本の2枚看板」であるBC2(脳性まひ)男子の二人、廣瀬隆喜選手(西尾レントオール)と杉村英孝選手(伊豆介護センター)です。ともにパラリンピックで複数メダルを獲得しているエースで、廣瀬選手は5大会連続の、杉村選手は4大会連続のパラ出場内定となります。

日本選手権終了後に行われた会見で記念撮影に応じるパリパラリンピック日本代表推薦内定選手たち。左から、杉村英孝選手、遠藤裕美選手、廣瀬隆喜選手 (撮影:星野恭子)

パワーの廣瀬選手、精度の杉村選手と持ち味の異なる二人が激突した決勝戦はボッチャの醍醐味がぎっしり詰まった名勝負となりました。試合は1点ずつを取り合った第3エンドに大きく動きます。廣瀬選手がジャックボールを力強い投球で10m先のエンドラインぎりぎりに置いて仕掛けます。あまり見られないエンドライン際の攻防で杉村選手も懸命に食らいつきますが、廣瀬選手がこのエンドだけで4点を挙げ、リードします。

第4エンドは杉村選手が得意のショートゲームに持ち込み、正確な投球で4点差をひっくり返す勢いでゲームを進めましたが、逆転を狙った最後の1球がわずかにそれて廣瀬選手のボールを押し、ジャックに近づけてしまったため廣瀬選手に1点を献上。結局、最終スコア6-1で廣瀬選手が大会4連覇を達成するとともに、パリ代表も内定。なお、規定により世界ランキング個人4位の杉村選手もパリ内定をつかみました。

廣瀬選手は自身5大会目となるパラリンピック出場を内定させ、「嬉しい。チームではまだ獲れていない金メダルを獲りたい。まずは自分たちがやってきたことを出し切ることが大事」と力を込め、また、個人では初となるメダルを目指し、「まずはメダル圏内に入ること。上に行ければ、金か銀を」と目標を口にしました。

スーパーショットを決め、トレードマークの雄叫びを上げる廣瀬隆喜選手 (撮影:吉村もと)

杉村選手は決勝で敗れたばかりで、「今の心境的にはすごく複雑な部分はあるが、パリパラ推薦内定においてはよかった」と振り返りました。ただし、個人戦で金メダルを獲得した東京パラ後のルール変更によって使用できるボールの種類が変わったことで、その調整に苦労してきたと話し、「自分の戦い方とボールのマッチングなどが未完成。パリで完成形を見せて、チームとして最高の結果を狙いたい。個人戦では目標は連覇。ライバルは出場するBC2男子全員です。廣瀬くんも含めて」と前を見据えました。

日本選手権BC2男子決勝戦終了直後、対称的な表情を浮かべる廣瀬隆喜選手(右)と杉村英孝選手 (撮影:吉村もと)

もう1名は、BC1(脳性まひ)女子で大会連覇を果たした遠藤裕美選手(福島県協会)です。「勝ったほうがパリ内定」という緊張感あふれる同決勝戦で、リオ・東京パラのメダリスト藤井友里子選手(アイザック)に8-2で快勝し、自身初のパラリンピックを内定させました。「すごく嬉しいの一言です」と喜びをかみ締めるように穏やかな笑顔を見せました。

遠藤選手は1-1の同点で迎えた第2エンドで、「練習してきた」というロングのジャックボールで勝負しゲームを優位に進めると、一気に5点を奪います。第3エンドで1点を与えましたが、最終エンドもロングのジャックボールから2点を加点して勝利。初のパラ内定もつかみました。

「このチームで精一杯練習して、パラの舞台でいい成績が出せれば最高だと思う。個人戦では決勝に上がって強い選手と戦い、自分がどれだけ対応できるか確かめたい」と初の大舞台に思いをはせていました。

先天性の脳性まひによる障害があり、ボッチャは24歳で本格的に始め、競技歴は約13年。リオ、東京パラも目指したものの代表入りはかないません。実力アップを目指して筋力トレや食事などで体づくりにも取り組み、昨年の日本選手権を初制覇。さらに昨年12月のアジア・オセアニア選手権では自身初の国際大会決勝に進出し銀メダルを獲得するなど着実に力を伸ばしてきました。

 「2連覇は練習してきたことをすべて出し切れ、それが成果となって結果につながった。(パリへ向け)チームとしての一番の課題はロングの強化とコミュニケーションだと思う。これまで以上に(チームで)コミュニケーションをとってパリに向かいたい」と闘志を燃やしていました。
磨いてきたロングボールにも自信、遠藤裕美選手 (撮影:吉村もと)

なお、東京パラ後、個人戦は男女別に行うなどルールが変更されました。長く男子選手に混ざり、BC1を牽引してきた藤井選手はルール変更について、「私にとっては複雑だったが、女性にもチャンスがきたということ。遠藤選手には『ありがとう。おめでとう』と声を掛けました。頑張ってほしいです」とエールを送っていました。

■BC3とBC4のペア代表は最終予選へ

パリパラ団体種目で、日本がまだ出場枠を得られていないBC3(重度脳性まひ・同運動機能障害)とBC4(運動機能障害)クラスのペアについては、3月にポルトガルで開催予定の「世界最終予選大会」で出場枠獲得を目指します。

BC3ペアの代表選手は今大会で要件を満たした男子優勝の有田正行選手(電通デジタル)と、女子優勝の一戸彩音選手(ポルテ多摩)に決まりました。最終予選大会で代表枠を獲得した場合はこの二人が代表選手に内定します。ともにパラリンピックは初出場となります。

有田選手は、「優勝はすごく嬉しい。勝因はいろいろな選手のプレーを研究して、しっかりと準備をして臨めたこと。ランプオペレーター(妻の千穂さん)とのコンビネーションも含めて、他の選手よりもクオリティが高かったのかなと思う」と大会を振り返り、パリパラへの挑戦権を得たことには、「一戸さんとはおととし、バーレンの国際大会でペアを組んだ仲間なので不安要素はない。準備期間は短いが、二人でプレーの選択を合わせていいチームになれれば」と力を込めました。

大会連覇を果たした一戸選手は、「連覇の実感はまだないが、嬉しい。私の有利な展開になるまでに時間がかかったが、ミスを引っ張らずに次につなげるようにした」と冷静に試合を進めたと話し、今後の目標については、「ポルトガルの(最終予選)大会で有田選手とパリパラリンピックの権利を獲得して個人、ペアともに金メダルを獲りたい」と力強く話しました。

BC3女子2連覇の一戸彩音選手(右)は12月のアジア・オセアニア選手権でも個人戦銀メダルを獲得。ランプオペレーターは父の賢司さん(左背中) (撮影:星野恭子)

BC4は男子を内田峻介選手(大阪体育大学)が、女子は岩井まゆみ選手(あいちボッチャ協会)が優勝しましたが、派遣要件を満たしていないなどの理由から、最終予選大会への派遣選手は日本ボッチャ協会が理事会などを経て後日、発表するとしています。

東京パラではBC2男子個人で杉村選手が金、BC3ペアで銀、BC1/2チームとBC4ペアでそれぞれ銅獲得と躍進した「火ノ玉ジャパン」。さらなる活躍に期待です。

精度の高いボッチャで最後まで戦った杉村英孝選手。パリパラではさらなる活躍を誓う (撮影:吉村もと)

<TOYOTA presents 第25回日本ボッチャ選手権:各クラス優勝者>
BC1男子:中村拓海(大阪発達総合療育センター)/同女子:遠藤裕美/BC2男子:廣瀬隆喜/同女子:蛯沢文子(NTTコムウエア)/BC3男子:有田正行/同女子:一戸彩音/BC4男子:内田峻介/同女子:岩井まゆみ

(文:星野恭子)