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「週刊Jリーグ通信」第7節「早くも天王山」

 「2ステージ」制となり、わずか17節で第1ステージの優勝が決まる今季のJリーグ1部(J1)。その折り返しとなる第9節で、早くも優勝の行方に大きな影響を与える「天王山」がやってくる。

 

 5月2日(土)に埼玉スタジアムで行われる「浦和レッズ×ガンバ大阪」。4月29日(祝)に第8節が行われ、その結果次第で順位が変わる可能性も十分あるが、今季のこれまでの戦いぶりから見ても第1ステージはこの2チームを軸に展開されるのは間違いなく、非常に大きな意味をもつ一戦になるだろう。

 

 G大阪は、7戦して5勝1分け1敗、勝ち点16で2位。第3節からの5連勝により、開幕から首位を走る浦和に勝ち点1差まで追い上げてきた。

 

 開幕から2節は1分け1敗。開幕戦でFC東京と2-2で引き分け、第2節はアウェーでサガン鳥栖に0-1で敗れた。AFCチャンピオンズリーグ、富士ゼロックススーパーカップと日程が詰まるなか、Jリーグでは結果が出ずに苦しんだ。

 

 しかし以後はヴァンフォーレ甲府に2-0、名古屋グランパスに3-1、清水エスパルスに3-2、湘南ベルマーレに2-0、そしてアルビレックス新潟に2-1と、すべて複数得点で5連勝だ。

 

 もちろん、FW宇佐美貴史の驚異的な得点力は、大きな牽引力だ。チームの14得点のうち8点をひとりでマーク、「5連勝」のすべてで得点してきた。

 

 宇佐美は自ら決めるだけでなく「得点をつくる」という面でも力を発揮している。開幕当初はまったくフィットしていなかったFWパトリックが調子を上げてきたのも、宇佐美のパスでゴールを決めるようになったからだ。

 

 しかしG大阪が蘇った最大の要因はMF今野泰幸の復帰だ。1月のアジアカップでの負傷で出遅れた今野。その今野がいなかった2節まで、G大阪は勝てなかった。第3節の甲府戦(アウェー)も、前半は相手に押され、シュートを2本しか打つことができなかった。

 

 しかし後半、今野が交代で出場すると試合はまったく変わった。中盤で今野がボールをカットして味方に送ったボールから、次々とチャンスができるようになったのだ。リズムをつかんだG大阪は後半に連続得点し、2-0で今季初勝利。以後今野はフル出場、チームを5連勝に導いている。

 

 一方、浦和は7戦して5勝2分け、無敗の勝ち点17で開幕から首位を守ってきた。今季の浦和の強さは、数字だけ見ると守備にあるように見える。7試合で挙げた総得点は10。失点はわずか4。G大阪の得点14、失点7と比較すればよくわかる。

 

 しかし浦和はミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下で2012年から積み重ねてきた攻撃に主眼を置くサッカーを今季も頑固に貫いている。パスをつないでボールを支配し、引いた相手に対しサイド突破や中央突破など多彩な攻撃を組み合わせてゴールを狙うサッカーだ。

 

 山ほどつくるチャンスをなかなか得点に結びつけられないのが得点数の少なさの原因になっているが、攻撃力は明らかに昨年より増している。

 

 昨年はFW陣の層の薄さが響いて終盤にFW興梠慎三が故障欠場するとずるずると勝ち点を失って優勝を逃したが、今季はそこにFWズラタン(スロベニア代表、大宮から)、FW石原直樹(広島から)、FW武藤雄樹(仙台から)、FW高木俊幸(清水から)と、手厚い補強を行った。開幕戦で興梠が負傷し以後ほとんどプレーできていない状況で、攻撃力が落ちていないのは、新戦力がよく働いているからだ。

 

 なかでもこれまで隠されていた才能を浦和のサッカーのなかで開花させたのが武藤だ。仙台では昨年30試合に出場したが、多くが交代出場で、得点も4点にとどまった。その武藤が競争の激しい浦和の攻撃陣で中心的存在になろうとしている。

 

 武藤の特徴はスピードと言われてきたが、浦和では、走るスピードよりも判断するスピードがクローズアップされている。「安全第一」が多い浦和のパスのなかで、武藤がボールを受けると一挙に攻撃がスピードアップする。ボールを受けて前を向くと、躊躇することなく最も危険なところ(前線の選手の足元)にボールをつけ、間髪を入れずに動く。その変化が、相手の守備組織を混乱させる。

 

 そしてもうひとり、今季の浦和の攻撃を牽引するのがMF関根貴大だ。20歳になったばかりの小柄な選手だが、右サイドで圧倒的なドリブルの力を見せ、チャンスを量産する。

 

 7試合で失点わずか4(最少)という浦和の守備力のベースは、攻撃からの切り替えの速さにある。前線の選手たちはボールを失った瞬間に守備にはいり、相手のプレーを限定する。それを後ろの選手たちが狙ってカットし、新しい攻撃につなげる。

 

 いわば守備も攻撃の一部というのが浦和の守備の考え方だ。当然のことながら、前線の守備が機能しないと試合のリズムが失われ、苦しい展開となる。相手が人数をかけて攻め込むと混乱することもある。失点が少ないのは、その混乱をGK西川周作が何回か救ったおかげでもある。

 

 今野が中盤を支配し、宇佐美が相手ペナルティーエリアの内外で存在感を示すG大阪。そして全員のパスワークに武藤と関根が変化をつけ、どんなに厚い守備組織も崩してしまう浦和。

 

 戦力が充実し調子が上がってきた同士の対戦が、「天王山」と呼ぶにふさわしいものになるのは間違いない。

 

〈写真:第7節での浦和レッズの選手たち(Jリーグ公式サイトより)〉