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リビエラ・カントリークラブの10番は、なぜ「世界最高のパー4」なのか(文・小林一人/写真・宮本卓)

リビエラ・カントリークラブを初めて訪れたゴルファーはまず、スタートホテルでのセレモニーに驚くことだろう。

スタート時刻になると、背筋のピンと伸びたスターターが「ネクスト・オン・ザ・ティ、プリーズ・ウェルカム、カズト・コバヤシ、フロム・トーキョー・ジャパン」と自分の名前をアナウンスしてくれるのだ。まるでマスターズの1番ティのように。

感動と照れ臭さの入り混じった気持ちで、クラブハウスの目の前にあるティグラウンドからグリーンに向かってまっすぐ続く長方形のフェアウェイに打ち下ろしていくのだが、うまく打とうが、そうでなかろうが、その一打は生涯忘れることのできない特別なゴルフ体験になることは間違いない。

「あのアナウンスは何年か前に、私が指示して行うようにしたんですよ」

そう語るのは、アドバイザーを務めるマイケル・R・ヤマキ氏。昨年10月、リビエラ・カントリークラブのスタッフが日本の名門ゴルフ場のコース管理スタッフと情報交換するためにこぞって来日したのだが、その際にふだんはあまり表に出て来ないというヤマキ氏に話を聞くことができた。

ヤマキ氏は全米のゴルフ界に太いパイプを持つ人物で、クラブのクオリティを高めるためのアドバイスを行うほか、全米オープン招致に向けてのロビー活動という重要な役割を担っているキーマン。ゴルフマガジン誌による「2013年度の世界ベスト100ゴルフコース」で33位にランクされているにもかかわらず、リビエラで1948年以来全米オープンが開催されていないのは、まさか日本人がオーナーだからというわけではないだろうが、再び全米オープンを、というのがクラブの切なる願いであり、そのために水面下で動いているのがヤマキ氏というわけだ。

1926年に開場して以来、ハリウッドスターを始めとするセレブリティの社交の中心として存在し続けているリビエラ・カントリークラブ。1929年からロサンゼルスオープンの舞台となり、ベーブ・ザハリアスが女性ゴルファーとして史上初めて、そして唯一男子レギュラーツアーの予選を通ったのもこのコースだった。ベン・ホーガンがリビエラをこよなく愛したこともよく知られており、ロサンゼルスオープンには3度勝っているほか、1948年の全米オープンに勝ったのは、他でもないホーガンだったのだ。数々の名場面が繰り広げられたロサンゼルスオープンは、いまでもノーザン・トラスト・オープンとして毎年2月に開催されている。

さて、リビエラがどんなコースかというと、ジョージ・C・トーマス・ジュニアがデザインした18ホールは1つとして似たようなホールがなく、そのすべてが面白い。ホーガンが「アメリカで最も素晴らしいホールだ」と語った4番のパー3や、グリーンの真ん中にバンカーがある6番のパー3、8番のパー4は左右に2つのフェアウェイがあり、どちらに打っていくかはゴルファー次第。10番は距離が315ヤードしかないものの、絶妙に配置されたバンカーとグリーンの形状によって、トッププロたちが普通に5や6を叩く危険なホールで、ジャック・ニクラウスは「メジャー大会を開催しているコースの中で、最も素晴らしいホールの1つ」と絶賛。ほかにも、ハンフリー・ボガードがその下でよくバーボンを飲んでいたという鈴懸の木がある12番パー4や、その一帯だけ植生が一変する神秘的な16番のパー3など、一度プレーしたら忘れられないホールが続く。

記憶に残るだけでなく難易度も相当なもので、豪快なショットでねじ伏せようとするゴルフでは通用しない。ニクラウスはついに勝てなかったし、タマキ氏によれば、タイガー・ウッズは少年時代にここで打ちのめされたため、苦手意識が芽生えてしまったそうだ。そのため最近ではノーザン・トラスト・オープンに出場さえしなくなってしまったのである。

それを克服しようとしたのがフィル・ミケルソンで、大好きなリビエラで7年連続予選落ちするなど、どうしてもうまくプレーできなかったミケルソンは、名誉会員であるエイミー・オルコットに攻略法の手ほどきを受けて、ようやく優勝できたのだという。

「フィルはエイミーからどこにボールを運べばいいか、どんなアプローチをすればピンに寄るかを細かく習ったんだ。そうしないとここでは優勝できないんだよ」

タマキ氏は2008年にミケルソンがようやくリビエラで勝つと、以前ミケルソンと一緒にラウンドした際に撮った写真にサインをしてもらったそうだが、

「あまりに時間が経ち過ぎていて、写真の彼はヨネックスのバイザーをかぶっているんだ」と笑った。

話を聞いているうちに、日本人選手が海外で活躍できない理由をまた見つけてしまったような気がした。ミケルソンはおそらく、ミュアフィールドの攻め方を熟知した上でプレーして全英オープンに勝ったのだろうし、メジャーに限らず、すべての試合にそういう準備をして臨んでいるのだろう。

世界のトップ選手がこういう姿勢なのだから、たまにメジャーにスポット参戦する日本人選手が試合の行われる週に乗り込んで練習ラウンドをしたところで、世界レベルのコースを攻略できるわけがないし、ライバルたちより少ないスコアをマークできるはずがないのだ。

体格差とか、英語力とか、日本人が通用しない理由がいろいろと論じられるが、なによりもコースが要求してくるショットの精度やアプローチのクリエィティビティ(創造性)についていけてない、というのが本当のところではないだろうか。

優れたコースは多くのことを教えてくれるし、それを攻略しようとすることで技量も上がっていくものである。そういう意味でリビエラ・カントリークラブは非常に優秀な教師だし、10番ホールの奥深い難しさを実感したとき、あなたはゴルファーとして一皮剥けるに違いない。

写真はどちらも10番ホール