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尖閣問題が激化する中国、最高幹部人事でわかった日本への強硬姿勢(相馬 勝)

中国外務省の最高幹部人事は対日シフト、

元駐日大使の2人を外相と駐米大使に、

対日強硬派の現外相が外交全般を束ねる国務委員(副首相級)

中国政府は三月の全国人民代表大会(全人代=国会)で、新たな外相に王毅・国務院台湾事務弁公室主任を、新駐米大使には崔天凱・外務次官をそれぞれ任命する見込みだ。両者とも駐日中国大使を経験した知日派。外交全般を担当する国務委員(副首相級)には対日強硬派として知られる現外相の楊潔■(よう・けっち/■は「竹カンムリに褫のつくり」)氏が内定しており、いずれも尖閣問題を意識した対日シフト人事といえる。

王氏は中国外務省でも典型的な日本専門家で、日本課長、日本大使館参事官、アジア局長などを経て、二〇〇四年九月から〇七年九月まで駐日大使を歴任。流暢な日本語を操り日本の政界や経済界などの要人と親密な関係を築いたことでも知られる。

大使在任中は小泉純一郎首相の靖国神社参拝で日中関係は悪化したが、王氏の幅広い対日人脈で危機的な状況を乗り切ったといわれ、中国内の評価は高く外務次官に昇格した。その後、台湾問題を担当する中国政府部内の最高責任者である台湾弁公室主任に昇格。馬英九・台湾総統との関係も密接で、党最高指導部内でも極めて信頼されている外務官僚出身者だ。

後任の駐日大使である崔氏は英語が専門の欧米通。日本語はまったく話せなかったが、〇三年からアジア局長を務め、その手堅い外交手腕を認められ駐日大使に就任。小泉政権後の対日関係立て直しが最重要課題で、安倍晋三新首相の訪中実現やその後の福田康夫政権、麻生太郎政権でも日中関係を安定させ、一〇年一月に外務次官に任命された。

中国外務省のジャパンスクール出身者が外相に就任するのは唐家●(とう・かせん/(●は「王ヘンに旋」)元国務委員以来二人目だが、崔氏のように駐日大使経験者が中国外交の要である駐米大使に転出するのは初めて。北京の外交筋が明らかにしたところによると、対日人脈が豊富な王氏を起用するのは、日本側が尖閣問題で協議のテーブルにつくように仕向けるためだ。

崔氏の駐米大使起用も尖閣問題で日本寄り姿勢を明確にしている米政府に揺さぶりをかける狙いがある。崔氏は駐日大使として、日本の各界の要人とのパイプがあり、日本側が尖閣問題などで対中譲歩をすべきとの意見があることなど日本の事情を熟知している。さらに、彼は欧米通で米国側の事情にも詳しいことから、日本と米国双方が必ずしも中国との対立を望んでいるわけではなく、沖縄問題など日米間の対立点があるなど、日米両国が一枚岩でないとの日米間の矛盾を突いて、尖閣問題で両国の離間を図るというわけだ。

すでに、外交問題担当の国務委員に内定している楊外相は、反日強硬派で知られる江沢民・元国家主席と近く、国連などで尖閣問題に関して激しい対日批判を展開している。このため、一連の人事発令で中国側の尖閣問題に関する立場に変化はなく、対日関係はこれまで通り厳しく推移することが予想される。

しかし、同筋は「知日派の王、崔両氏を起用することで、対立よりも対話を重視する日米双方の親中派を味方につけ、そこから日本側に妥協を強いることをねらった『対日包囲外交』といえるものだ」と明らかにしている。

【NLオリジナル】