日米首脳会談の注目点と安倍外交への懸念(藤本 順一)
安倍晋三首相は22日、オバマ大統領と会談した。TPP(環太平洋連携協定)の交渉参加問題が最大の焦点となったが、他にも民主党政権の3年間に混乱した日米関係の強化、再構築に向けての課題は山積している。
TPPの個別項目で米国が特に興味を示しているのが医療保険分野の日本市場参入である。だが、自由化となれば現行の国民皆保険制度をはじめとする戦後日本の医療保険体制を根幹から覆すことにもなりかねない。国民の多くも不安だろう。
安倍首相は19日の参院予算委員会で「個別の項目を米側と交渉しているわけではない」としながらも、「国民皆保険制度は交渉で揺るがす考えは毛頭ない」と述べている。
ただ一方で現行の医療保険制度に限界があるのもまた事実である。高齢化社会を迎え、今後、医療費の国庫負担は増加の一途だ。保険対象の見直し、総合病院と町医者との役割分担、医薬品の認可流通の在り方等々、見直すべき課題は既得権益を擁護したい日本医師会をはじめとする業界団体の強い抵抗に合い遅々として進んでいない。
米国がこの分野に参入することで旧態依然とした医療保険制度の改革につながり、国民の利便に叶うなら国民皆保険にこだわることはない。このまま現状を追認するだけなら、国民はさらなる窓口負担を強いられることになろう。
日米首脳会談ではもう一つ、注目していたのが北朝鮮の弾道ミサイル、核開発問題への対応だ。
安倍政権は北朝鮮のミサイル発射施設などを直接攻撃できるよう自衛隊に巡航ミサイルを配備するなどの適地攻撃能力保有を検討している。万が一の時には自衛隊が米軍になり代わり北朝鮮にミサイルをブチ込むんだとか。いかにも米国の歓心をひきそうなネタではあるが、首脳会談で言及するには過激すぎる内容である。中国をはじめとする周辺国の反応は容易に察しが付こう。
かねてより安倍首相が攻撃能力の保有に前のめりの発言を繰り返していただけに、その舌足らずの多弁、駄弁を心配していたのだが、首脳会談では米軍の早期警戒レーダーを日本に追加配備するなどミサイル防衛(MD)の協力推進で合意するに止めた。
「日米の絆と信頼を取り戻し、緊密な日米同盟が完全に復活したと宣言したい」
首脳会談を終えた安倍首相は記者会見でこう胸を張った。安倍外交はまずまずの滑り出しである。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】