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資本家に変貌した中国8大元老ファミリー(相馬 勝)

中国共産党の紅い革命家の2世ファミリーはブルジョアジー

革命を忘れて金儲けに奔走〝打倒〟される資本主義資本家に成り下がる?

中国では鄧小平ら共産主義政権誕生に大きく貢献した8大元老が1980年代から90年代にかけて中国政治を動かした。それら元老の二世や三世らファミリーメンバー103人のうち26人が国有企業のトップを務めているほか、そのほかの43人も民営企業を経営しており、「太子党」と呼ばれる高級幹部子弟が経済的に優遇されている。そのなかには、昨年11月の党大会後、党トップの党総書記や党中央軍事委主席に就任した習近平の親族も含まれている。中国の共産主義運動を展開した革命家の2世、3世はまさにブルジョア資本家に成り上がったといえそうだ。

8大元老とはかつての最高実力者で軍事委主席だった鄧小平を筆頭に、陳雲・元党副主席、王震・元国家副主席、李先念・元国家主席、彭真・元全国人民代表大会(全人代)委員長、宋任窮・元党政治局員、楊尚昆・元国家主席、薄一波・元副首相の8人を指す。

これに、現在の実質的な最高指導者である習近平・国家副主席(党総書記)の父親である習仲勲を加えることもある。

米金融経済専門通信社ブルームバーグによると、これら8代元老の2世や3世のうち、鄧小平の娘婿の賀平は人民解放軍の関連企業である保利集団の総帥を務めているほか、王震の息子の王軍は中国で最大規模の企業集団のひとつ、中信集団のトップのほか、香港でも企業数社を経営するなど、いまや悠々自適で「ゴルフ王」との異名をとる。

また、鄧小平が提唱した改革・開放路線に反対した保守派の重鎮、陳雲・元党副主席の長男である陳元は中国国家開発銀行総裁を務めるなど、8大元老のファミリーメンバーは経済界のトップとして君臨している。

さらに、習近平ファミリーとしては、姉2人がビジネスの世界で活躍している。長女夫妻は複数の会社を経営し、北京や深圳、さらに香港を拠点に不動産関連を中心としたビジネスを展開。次女夫妻はカナダに居住しカナダ国籍も取得していながら、中国の携帯電話事業に出資し巨利を得ているという。

また、習近平の弟、習遠平は1997年の中国に返還される前の香港に移住しており、北京に本部を置く国際環境団体の会長に就任しているが、それは多分に名誉職的な肩書きであり、彼が表に立ってビジネスを展開することはほとんどなく、その行動には謎が多い。

彼らは「次期最高指導者」としての習近平のファミリーとして、さまざまなコネクションを使いながら手広くビジネスをしていることは分かっているが、その実態は闇に包まれてきた。だが、金融・経済情報専門通信社「ブルームバーグ」や香港メディアなどの情報を総合すると、習近平ファミリーの総資産は少なくとも420億円を下らないことが分かっている。

まず、最も活発なビジネス活動を展開しているのが習近平の一番上の姉、斉橋橋と、その夫の鄧家貴夫妻だ。鄧夫妻は2人で11社の企業のオーナーであり、そのほか、少なくとも25社の重役として経営に携わっている。

夫の鄧家貴は深圳にある投資会社の深圳遠為投資の会長を務め、この資産が18億3000万元(約229億円=2011年12月現在)。さらに、同社の関連会社の資産が5億3930万元(約67億円)に上る。彼はこれらの企業を通して、江西省にあるレアアースを生産・販売している江西レアアースの株式の18%を所有しており、それだけで4億5000万元(約56億円)に上る。

夫妻は北京で不動産会社の北京中民信房地産開発を経営しており、妻の斉橋橋が会長、鄧家貴が社長に納まっている。同社のホームページによると、同社は2001年8月9日創設で、資本金5000万元(約6億2500万円)。同社が開発した北京の一等地に建つマンションのうち、面積が189平方㍍で、3ベッドルームの物件は1500万元(約2億円)で売りに出されているという。

さらに、鄧家貴夫妻の一人娘夫婦が北京の電機会社の株式1億2840万元(約16億円)を所有しているほか、鄧夫妻や娘夫婦は香港に、3150万ドルの豪邸のほか、6件の不動産物件計2410万ドルを所有していることが分かっている。このほか、鄧家貴名義で中国有数の不動産会社、大連万達商業地産の株式を3000万元分保有。これらの資産をすべて合わせると、中国人民元分では約29億9770万元(約375億円)、米ドル分は5560万ドル(約45億円)で、合計420億円に達する。

しかも、これは分かっているだけで、鄧家貴が所有している建設会社は最近、湖南省での橋梁建設を約10億元で請け負ったとの情報もある。

また、習近平の第2番目の姉である斉安安の夫の呉龍は「広州新郵通信設備」の会長を務めており、中国最大の携帯電話事業を展開する中国電信集団(チャイナテレコム)と密接な関係を持ち最近、数億元の事業を受注したと伝えられる。

英BBCは「中国共産党幹部はさまざまな事業の情報をいち早くキャッチし、ファミリーで利益を独占してしまう。これは非合法ではないが、富が〝赤いファミリー〟に集中することは避けられない。しかし、共産党政権がこれらのインサイダー的な手法を改革したり、幹部の資産を公にすることないだろう」と伝えている。

習近平が「大哥(大兄貴)」と呼んだ曾慶紅・元国家副主席の場合も同じだ。妻や子息が3000万豪州ドル(約24億円)でシドニーに豪邸を購入したことはよく知られている。また、呉邦国・全国人民代表大会(全人代)委員長の娘婿が米証券会社のメリルリンチと組んで、中国の大手国有銀行の中国工商銀行のニューヨーク市場上場を果たし、220億ドル(約1兆7600万円)もの巨利を得たと伝えられている。さらに、清廉とのイメージが強い温家宝首相や胡錦濤主席の子息らが特権を利用して、ビジネスに関わっていることはよく知られている。

一方、米紙ニューヨーク・タイムズは昨年10月下旬、温首相の母や弟、妻、息子ら親族が27億ドル(約2268億円)もの巨額な資産を保有していると報じたが、温首相の弟、温家宏が腐敗に手を染めているとして、党規律検査委員会の取り調べを受けているとの情報もある。温家宏は分かっているだけでも2億ドル(168億円)の資産があるが、その大部分は政府関連機関から受注した医療廃棄物や汚水処理などによる売り上げで、温首相が仲介した疑いがもたれている。

さらに、温手首相の90歳の母が5年前、1億2000万ドル(約100億円)もの株式を保有していたと報じられたが、同紙によると、温首相の家族だけで時価総額で240億元(3120億円)もの中国有数の大手保険会社、平安保険株を保有。その株式取得の過程で、温首相が国家機密を家族に漏らし、ファミリー全体が巨額な資産を手にしたとの疑惑が急浮上している。

また、先述した8大元老のファミリーメンバーのうち、分かっているだけで、少なくとも23人が米国の大学に留学。そのうち、3人がハーバード大学で、4人がスタンフォード大学。彼らは大学を卒業すると、米国で職を得て、ビジネス活動に入る者が多いのが特長で、少なくとも18人が米国で事業を展開し、そのうち13人は不動産に関係した事業を展開している。このなかには、鄧小平の孫も含まれている。

また、2、3世のうち18人がタックスヘブンで知られるカリブ海上のケイマン諸島やバージン諸島などの銀行で資産運用していることが分かっている。

中国政治に詳しいハーバード大学のロデリック・マクファーカー教授は「中国国民党時代は蒋介石ら4大ファミリーが統治していた時期もあったが、いまや8大ファミリーならぬ44ものファミリーが中国経済を牛耳っている。かつて共産革命を成し遂げた革命一族は子孫の代にブルジョア資本家に変貌したと言ってよい」と指摘しているほどだ。

【NLオリジナル】