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北朝鮮、核実験中止か!?(辺 真一)

遅くとも金正日総書記の誕生日にあたる2月16日までには行われるだろうとみられていた北朝鮮の核実験がもしかしたら見送られるかもしれないと囁かれ始めた。

北朝鮮の対南宣伝機関の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」が先週土曜(9日)に金正恩第1書記が決心した「国家的重大措置」について「米国などは3回目の核実験と早合点し、実行すれば先制攻撃すると騒いでいる」と非難したからだ。

北朝鮮が言うところの「早合点」とは、「勝手に思い込んでいる」という意味なのか、それとも「先走っている」という意味なのか、どのようにも解釈できるが、前者ならば、核実験場での動きはすべてトリック、カモフラージュだったということになる。北朝鮮が最初から核実験をやる気がなかったなら、それはそれで結構なことだ。

しかし、北朝鮮外務省が1月23日の声明で「我々は日々露骨化する米国の制裁圧迫策動に対処するため核抑止力を含む自衛的軍事力を質量的に拡大強化するため任意の物理的対応措置を取ることになる」と宣言し、さらに翌24日には最高権力機関の国防委員会が「自主権守護のための全面対決戦に出る」との声明で「この全面対決戦で我々が引き続き発射することにあるあらゆる衛星も、長距離ロケットも、我々が行う高い水準の核実験も米国に向けられることになる」と布告し、そして1月25日付の労働新聞が「核実験は民心であり、他の選択はない」との正論を掲載した以上、北朝鮮が核実験に踏みるのではと受け止めるのは極めて自然のことである。

また、この正論が出た翌日(1月26日)に最高指導者の金正恩氏が国家安全外交責任者会議を開き「民族の尊厳と国の自主権守護のため強力な物理的対応措置を伴うことになるとの立場を明らかにしたように作りだされた情勢に対処し、実質的で強度の高い国家的重大措置を取る断固たる決心をした」と発言し、さらには2月2日に軍将軍ら80名を招集し、党中央軍事委員会拡大会議を開き「国の安全と自主権を守るための綱領的な指針になる重要な結論を出した」わけだから、核実験の日は近いと身構えるのもまた至極当然のことである。

まして、2月5日付の朝鮮中央通信は「命よりも貴重な国に自主権守護のため今日の全面対決戦に出た我々にいかなる伸縮性や譲歩を期待するとすれば、それほど愚かなことはない」と北朝鮮側に譲歩の余地がないことを鮮明にしていた。それだけに「誰が核実験をやると言ったのか、勘違いするな」と言われても、「ああ、そうですか」とすんなりと受け止められないのも、これまた事実である。従って、韓国政府は昨年のミサイル(衛星)発射の際に見せた「欺瞞戦術」の一環との見方を崩していない。

祖国平和統一委員会のウェブサイトが報じたのは、8日付の北朝鮮の週刊誌「統一新報」の記事からの引用だ。

「統一新報」は党及び政府の見解を代弁しない「無所属誌」である。今回の「早合点」が党機関紙の「労働新聞」や政府機関紙の「民主朝鮮」で報じられるか、あるいは国営放送の「朝鮮中央放送」で伝えたなら、一考の余地があるが、そうではない。現に統一新報は「米国の『措置』に相応する超強硬措置をとるのは自明の理だが、今後、取ることになる共和国の重大措置がどのようなものかはしばらく見なければならない」と「重大措置」の中身が何かはわからないでいる。

核実験以外の重大措置で、北朝鮮が取れるオプションは、国連脱退か、休戦協定の破棄以外しか考えられないが、国連からの脱退は「対抗措置」とはほど遠く、むしろ「追放」や「除名」を求める国々にとっては皮肉なことに歓迎されるだろう。また休戦協定はすでに形骸化されており、北朝鮮が「無効」「破棄」を宣言したとしても、これまた「超強硬措置」とはならない。

北朝鮮の核実験に伴う緊張激化に備え米韓両国は3月11日から最大規模の合同軍事演習「キーリゾフル」をスタートさせる。

北朝鮮が核実験を遅らせているのは、過去に「瀬戸際外交」を展開し、1976年から17年間続いていた米韓合同軍事演習「チームスピリット」を中止に追い込んだことから中国を仲裁に「キーリゾフル」の中断と核実験の見送りをバーター取引している可能性も考えられなくもない。しかし「北朝鮮の脅しには屈しない」「悪習に見返りは与えない」との立場を堅持する米韓両国が応じる可能性は少ない。

北朝鮮が核実験の準備を完了しているなら、やはり、ボタンを押すのは時間の問題だろう。遅らせれば、遅らせるほど地下に設置された核関連装置が腐食し、失敗する恐れがあるからだ。どうやら今週が大きな山場だ。

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