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領海警備にはほど遠い海自護衛艦に向けられたレーザー照射の事件現場(藤本 順一)

「一方的な挑発行為であり、不足の事態を招きかねない危険な行為だ。日中両国で対話に向けた兆しが見られる中、戦略的互恵関係の原点に立ち戻って再発を防止し、事態をエスカレートしないよう強く自制を求める」

中国海軍のフリゲート艦が先月30日、東シナ海公海上で海上自衛隊の護衛艦に対して火器管制レーダーを照射した問題について安倍晋三首相は6日、参院本会議でこう述べた。

レーダー照射は砲艦やミサイルを発射する直前に目標の位置や速度を正確に掴むためのもの。その距離3km、攻撃を受ければ防ぎようがない。海自艦がかなりの緊張状態に置かれていたことは察しがつくこう。19日には海上自衛隊のヘリコプターも照射されている。ただし、砲身は直接、護衛艦にもヘリにも向けられてはいなかった。かつてない挑発行為ではあるが、本気で引き金を引くつもりはなかったようだ。事なきを得て何よりである。

それにしても、あえて指摘して起きたいのは海自艦の行動である。日本政府は昨年9月14日、中国の海洋監視船6隻が領海侵入して以来、尖閣周辺の監視警戒活動を強化し、海自の巡視船が接水海域(領海の外側約22km)でその任にあたっていた。 それにもかかわらず、何故、海上自衛隊の護衛艦が尖閣の日本領海からさらに100km以上も離れた公海上で、緊張関係にある中国艦船と対峙することになったのか。しかも、至近距離で。中国艦を監視、追尾するだけならばもっと距離を保つことができたはずだ。

民主党政権は中国への刺激を嫌い、尖閣周辺での海自の行動には抑制的であったために、中国の増長を許してしまった。 先の衆院選ではこれを弱腰だと徹底批判して自民党が政権復帰を果たした。タカ派の安倍首相は就任早々、領域警備に関する対抗措置の強化を打ち出している。 領土領域保全への姿勢、意気込みはけっこうなことだ。しかしながら今回は領域警備にはほど遠い公海上で起きた一触即発の非常事態である。現段階、政府が公表している情報だけでは全体像はつかめない。あるいはタカ派安倍首相の登場に力を得た海自側に勇み足がなかったのか。再発防止のためにも、危機に至るまでの海自護衛艦の動きについて詳細を検証してみる必要があろう。

【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】