ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

フクシマの声/「郡山イチゴ園・国分一男さん」(久保田 彩乃)

VOICE OF FUKUSHIMA~福島で生きる人々の声~【第1回】

「家族連れがやってきて、うちのイチゴを食べて『甘い!』と喜ぶ声を聞くとうれしいよ」

(郡山イチゴ園代表・国分一男さん)

『郡山いちご園』は、郡山市内で唯一、イチゴ狩りができる施設だ。2000年にオープンして以来12年、300坪の敷地にはビニールハウスが7棟並び、その中でイチゴを育てている。代表である国分一男さんのこだわりは、高設栽培でも水耕でもなく、土でイチゴを育てること。ミネラルを含む土で栽培した方が、おいしいイチゴができると考えている。

また、高設栽培にすることで、客は腰をかがめなくても立った状態で摘み取ることができる。そして、ビニールハウス内の掃除がしやすく、清潔を保つのにも適しているという。

「2011年3月の震災で、イチゴを栽培する装置がほとんど壊れたよ。助成金などを利用して修理しているけど、いまイチゴ狩りができるのは4棟だけだね。去年は震災の影響でお客さんは少なかった。だけど、この“イチゴ園”をつぶすわけにはいかないんだ。うちはイチゴを出荷せず、観光農園としてだけやっている。作業員の人数が限られているからパック詰めなどの作業に時間を取られたくないというのもあるけれど、何よりも地元でイチゴ狩りを楽しめるようにしたいという気持ちが強いからね」

イチゴがおいしくなるピークは2月半ばだという。国分さんのイチゴ園では「ふくはるか」と「とちおとめ」という2品種を栽培している。ピークはこれからと言っても、ハウス内には、すでに甘酸っぱい香りが漂っており、緑の葉が生い茂る中から真っ赤に熟したイチゴを見つけるのは簡単だった。

「家族連れのお客さんがやってきて来て、うちのイチゴを食べて子供さんが『甘い!』と喜ぶ声を聞くとうれしいよ。でも、最近はイチゴ狩りにくる子供の数が少なくなっているような気がする」

郡山イチゴ園では、市の農業試験場などに依頼して、イチゴの放射性物質検査を行なっている。その結果は放射性物質は検出せず。「ハウス内を清潔に保てるようにと工夫したことが、結果としてよかったのでは」と国分さんは言う。

「この周辺の日和田地区も放射線量の高いところはあったんだ。一部の側溝は除染前27マイクロシーベルトもあった。うちには孫が13人いる。下は3歳から上は高校1年生まで。放射能は心配だよ。だから住民で通学路などの除染活動をしたんだよ。

原発事故後は、家族で新潟に半月くらい避難していた。でも戻ってきたんだ。なんでかって、そりゃ、こっちに仕事があったからね。社員がこっちで一生懸命働いてくれているのに、自分たちだけ逃げているのは理屈に合わないから」

原発事故に対する怒りや不安は県民の誰しもが持っている。しかし、それでもこの地で、家族を守り、社員を守ろうとする国分さんは、冷静に、したたかにこの福島で生きている。

「福島の農産物は安全だと思ってもらえるように、国や県・市がこれからどうするのかに期待するしかないよな。原発事故は大変なことだよ。みんなが困っているんだから。だから原発はなくしてほしい。原発がなければ事故もないんだから」

 

※「VOICE OF FUKUSHIMA」のラジオ版は「U3W」(http://u3w.jp)で聴くことができます。

【VOICE OF FUKUSHIMA&NLオリジナル】