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政治家の身を切った改革、リトアニアにはできて日本にはできないのか?(大貫 康雄)

この7月からEU議長国となったリトアニア(Lietuva/英語表記はLithuania)は、旧ソ連下にあったバルト3国のひとつで人口約300万人の国。

2004年旧東欧諸国とともにEUに加盟して以来、順調に経済発展を遂げてきたが、やはりリーマンショック以降、経済・財政悪化に苦しんできた。しかしギリシャなどと異なり、外からの支援を受けず、国民一体となって自力で財政再建を推進してきた。

その大きな要因に、大統領以下政治家が身を切ったことがある。といっても日本でもっぱら議論されている国会議員の定数削減ではない。リトアニアでは現職政治家が実際に国民の前で報酬を大幅削減したのだ。

議員報酬大幅削減については、リトアニアのダリア・グリバウスカイテ(Dalia Grybauskaite)大統領(57歳・女性)が、ドイツ第二公共放送『ZDF』のインタビューで具体的に話している。

まず、2009年7月の就任時にグリバウスカイテ大統領自身が年間報酬を50%削減(日本円で900万~1000万円余程度)すると宣言。これを受けて議会も議員141人の報酬を一律30%削減した。

経済停滞、財政の立て直しに緊縮財政を進めるため、まず政治家が報酬を大幅に削減する具体例を示したのだ。これは国民の理解と支持を得るためだった。

(議員定数の安易な削減は、民主主義の基本である“誰にも等しく開かれる機会”をせばめることになり、ひいては“議員職が特定者の手に握られる”と考えるからだ。日本ではどうだろう。先進各国に比べ格段に高い報酬と諸手当を半分にし、その同じ予算内以下で議員定数を逆に倍増させる。すると遥かに多様な人たちが国政に参加し、より幅広階層の意見が反映されやすくなるのではないか。カネがないと政治家になりにくくなる一方で、すでに多くの世襲議員が存在し、政治家2世、3世の総理大臣さえ何人も出て、階層化が指摘されている)。

そしてリトアニアは、生物工学(バイオテクノロジー)をはじめ、ハイテク産業と観光業を進め、現在、経済が回復しつつあり、2015年1月には統一通貨のユーロ導入を予定している。

この緊縮政策の推進と産業構造の転換に「EUや外国からの支援は一切受けなかった(自力回復)」とグリバウスカイテ大統領は語る。

(EU議長国・EU理事会の議長国は、半年ごとに交代、前後議長国の3カ国が協議しながら、その年その年のEUの最重要議題を決める役割を担う)

グリバウスカイテ大統領は、EU委員会の委員時代に各国を説得して研究開発に向けたEU支出を増額させ、「ヨーロッパの声」(エコノミスト・グループが発行)で2005年のEU委員」に選ばれている。このように、強い意志と粘り強い努力で知られる。

グリバウスカイテ大統領は“EUの経済政策に必要なのは、言葉ではなく行動だ。若者の失業問題の克服は、EU予算の最優先事項だ”と断じる。また対外政策では、23年前まで旧ソ連(ロシア)の支配下にあった歴史を意識し、東の隣国ベラルーシやウクライナとの関係促進が重要であると主張している。

身を切ってこそ、政治家自身に覚悟が生じるのだろう。グリバウスカイテ大統領の言葉には、大国支配を脱し、EU加盟国となったリトアニアが国民一致してEUの中で存在感を増していく、そのような決意が窺われる。

【DNBオリジナル】

 

illustration by Richie

Source from http://commons.wikimedia.org/wiki/File:LocationLithuaniaInEurope.png?uselang=ja