日中であまりに違う「習近平vs.山口会談」報道(相馬 勝)
本当に成功だったのか? 習・山口会談、尖閣問題で日中間の食い違いを見せつけただけ!
中国共産党の習近平・党総書記と公明党の山口那津男党首との会談では、日中首脳会談の実現に向けて合意したと報じられているが、テレビでニュース映像を見る限り、習総書記の表情は苦虫をかみつぶしたようで、とても日中首脳会談を望んでいるとは思えないと考えるのは私だけだろうか?
その証拠に、会談内容について、山口氏と習氏ら中国側との発表には、あまりにも大きな差があるように感じる。
新聞、テレビを含む日本メディアは、山口氏は習氏が「首脳会談実現に前向き」で、習氏は関係改善に意欲を示す安倍首相のことを「高く評価する」としたが、これらの中国側の肯定的な評価について、中国側の報道ではまったく触れていない。
中国国営の新華社電によると、習氏はまず、日中国交正常化のときの共同声明などの「4本の政治文件(献)が日中関係のバラスト石(船などに積み込まれる安定を良くするための石)であり、(4つの政治文件に離反し、それらを破壊しているので)遵守を堅持しなければならない」と前置きして、「長期間の穏健な安定発展を保持して、大局観に立ち、進むべき方向を把握して、両国間に存在する敏感な問題をうまく処理しなければならない」と強調した。
そのうえで、習氏は自ら尖閣諸島問題を持ち出して、「中国側の釣魚島(尖閣諸島の中国名)問題に対する立場は一貫しており明確だ。日本側は歴史と現実を直視し、実際の行動をもって、中国側といっしょに努力し、対話と交渉を通して、問題をきちんとコントロール、解決できる有効な方法を探し出さなければならない。日本側は中国人民の民族感情を尊重し、歴史問題を正しく処理しなければならない」と述べている。
これでは抽象的なので、習氏の思うところを、私なりに日本語に〝翻訳〟すると、「日本側が歴史問題や尖閣問題について正しい処理をしておらず、中国人の民族感情を逆撫でしている。日本は歴史問題と現実を直視して、尖閣諸島問題を解決するために、交渉のテーブルについて協議しようではないか。きっと正しい解決方法が見つかるはずだ」ということになる。
さらに、習氏は公明党の山口代表の訪中について、「中国は山口(代表)が、両国関係が特殊な環境に直面しているときに訪中したことを重視している。公明党は今後も中日関係を発展させ、建設的な役割を発揮することを期待する」と語っている。これも私流に〝翻訳〟すると、前半部分はそのままで、習氏が公明党に期待しているのは、「公明党は中国のために、中国の立場を日本国内で代弁して、中国が望むような関係を構築するよう、その役割を果たしてほしい」となる。今回の訪中で、公明党はあまりにも中国のメッセンジャー的な役割を演じすぎたのではないか、と私は感じている。
ちなみに、産経新聞は習氏の発言要旨を次のように報じている。
■習総書記の発言要旨
中日関係が特殊な情勢に直面している中での来訪を重視している。公明党とは政党間の交流の歴史がある。引き続き交流を展開していきたい。安倍晋三首相にくれぐれもよろしくお伝えいただきたい。安倍首相が中日関係の改善、発展に積極的な貢献をされたことを高く評価している。
中日関係は特殊な情勢に入っているが、40年間の国交正常化の歴史をさらに深く広く発展させなければならない。大局的な観点で敏感な問題、意見の相違をコントロールしていくことが大事だ。
双方にとって緊急性をもつのは釣魚島(尖閣諸島の中国名)だ。双方の立場、意見は違うが、対話と協議でコントロールしつつ、問題解決すべきである。歴史を直視すれば未来に目を向けることができる。過去の教訓もあり、日本側は慎重に対応していただきたい。
両国のハイレベルの指導者の交流という提案は大変重視し、真剣に検討したい。そのために積極的な雰囲気をつくることが大事だ。(北京 力武崇樹)
日本のメディアが強調しているのは、この要旨の第1段落と最後の第4段落だ。すなわち、「習氏が安倍首相を高く評価している」部分と、「首脳会談について真剣に検討」の部分だが、これまでみてきたように、新華社電はこの2点についてまったく触れていない。無視しているのだ。新華社が報じているのは、第2段落と第3段落で、これについて、日本メディアはほとんど報じていない。同じ会談を報じるのに、日本と中国ではまったく正反対のとらえ方をしていることになる。
新華社以外のメディアはどのように報じているのか。党機関紙「人民日報」をみてみると、新華社電と一字一句違わない記事が使われていた。いや、奇妙なことに、新華社電と同じ記事なのに、書いた記者の署名が違うのだ。新華社電は「新華網北京1月25日電(記者 銭彤)」とあるのに、人民日報では「本報北京1月25日電 (記者 趙成)」となっている。これは党中央宣伝部が新聞、テレビなどのメディアの責任者に「重要なニュースなので、新華社電を使え。新華社の記事を一字たりとも変えてはならない」と指示したのは明白だ。
しかし、人民日報は党機関紙で、新華社と一緒に取材したので、「記者の署名だけは別にしてもよろしい」というところだろう。さきに、広東省の週刊紙「南方週末」の社説改ざん事件があり、報道統制が大きなニュースになったが、新聞やテレビ報道で、まったく同じ記事が使われて、画一的な報道を強要するのも、種類は違うが、厳しい報道管制に違いない。
つまり、尖閣問題に関しては、党中央の公式見解以外、別の見方を報道してはいけないということだ。社説改ざん事件とは違うようにみえるが、実は根っこは同じで、北朝鮮の報道管制と大差ないということになる。
このようにみてくると、習氏ら中国指導部が尖閣問題について、日本の言い分を聞く耳はもたないことが分かる。
これは、この日の一面トップで山口・習会談を報じた人民日報はやはり1面で、共産革命の聖地、延安での革命運動についての座談会の模様を報じているのだが、そのなかで、許其亮・党中央軍事委副主席が日本帝国主義を非難する発言が掲載されている。
「70年前の日本帝国主義の狂気じみた侵略に遭い、陜甘寧辺区の軍民は党中央と毛沢東同志の提唱、推進の下、創造的に『軍の優抗を擁護し、政府が人民を愛することを擁護する』(二つの)運動を展開し、各抗日根拠地で勢いよく展開し、抗日戦争の最後の勝利を勝ち取るために極めて重要な役割を発揮した」
1面トップで、山口・習会談を取り上げ、それと同じ面で、日本の歴史問題を蒸し返すようなニュースを掲載していることに、習近平指導部の対日姿勢が如実に表れていると私は思う。
さらに、同紙3面では、会談の解説記事を掲載し、日本は歴史問題を直視し、4つの政治文件の原点に立ち返り、尖閣問題で譲歩せよと言い出しかねない主張をしており、今後、日中首脳会談が実現するまでにはかなりの時間がかかるとともに、首脳会談が実現しても、尖閣問題の解決までにはかなりの歳月を要するであろうことが予想されるのである。
【NLオリジナル】