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ノーボーダースポーツ詳細
2017年12月11日
「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(206) あなたにっとって、パラスポーツはどんなイメージですか?
「トーキョー!」

2013年9月、IOCのジャック・ロゲ会長がブエノスアイレスでそう叫び、2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定して以来、パラスポーツを取り巻く環境はドラスティックに変化しています。選手の意識、選手層、予算、強化体制、政府の管轄なども変わりました。報道量も格段に増え、認知・普及度も2013年以前に比べ、かなり高まってます。

その一つの根拠を示す研究が、11月23日に都内で開かれた、「障がい者スポーツのテレビ放送における社会発信の変化」というシンポジウムで発表されました。主催したのはヤマハ発動機スポーツ振興財団(2006年設立)です。

シンポジウムはヤマハ発動機スポーツ振興財団(2006年設立)が2012年から取り組む、「障害者スポーツを取り巻く環境調査」の一環として実施。

笹川スポーツ財団主任研究員の小淵和也氏の発表によれば、夏季パラリンピック過去3大会の前後1カ月間で、日本におけるテレビ放送時間を調査した結果、2008年北京大会は42時間50分、2012年ロンドン大会は45時間25分とほぼ同じなのに比べ、2016年リオ大会では133時間44分と約3倍に増加しています。

興味深いのはテレビ局別の分析で、軒並み増えているなか、特にNHK総合では3倍以上増えたのに対し、Eテレ(NHK教育)だけ減少している点です。つまり、2013年を境にパラスポーツが障がい福祉系の枠からスポーツの枠へと取り上げ方が変化したと推測されると、小淵氏は分析します。

また、番組カテゴリー別では、「スポーツ」番組はロンドンとリオであまり変化はないものの、「情報/ワイドショー」「ニュース/報道」が大きく伸びていることから、パラリンピックやパラリンピアンがさまざまな角度で伝えられ始めていることがうかがえると分析しています。

小淵氏はもう一つ、「視聴者に対する社会的認知度調査」の2014年度と16年度の結果を比較。それによると、パラリンピック認知度は上がったものの、選手個人では車いすテニスの国枝慎吾選手がトップでしたが、パラリンピック2連覇の世界ランカーでも、認知度は34.0%にとどまっていました。「知っている」から、「ファンとして積極的に観る」人との差を報道の仕方も含め、どう埋めていくかが今後の課題といえそうです。

つづいて、藤田紀昭氏(日本福祉大学スポーツ科学部教授)をコーディネーターに、現役パラ選手やテレビメディア関係者のパネリストによる、「障害者スポーツとテレビ放送の関係性」をテーマにパネルディスカッションが行われました。それぞれの立場からの活発な意見交換は聴きごたえがありました。
T44クラス(片ひざ下義足など)のスプリンター、佐藤圭太選手はリオ大会4x100mリレーの銅メダリスト。約10年前にユーイング腫で右脚を切断し、競技用義足と出会った頃には、「パラアスリートを特集したテレビ番組が放送されるなんて、想像もしなかった」そうで、2013年以降の日本におけるパラスポーツ盛り上げの機運は海外選手からも羨ましがられるほどだとか。今後は、パラスポーツを「知っている・見たことがある」という状況から、「馴染む・慣れる」まで引き上げたり、従来のパラアスリートに対するイメージ、「大変そう・関わりたくない」から、「かっこいい」へとマインドセットを変えたいと訴えていました。

リオ大会で銅メダリストとなったウィルチェアーラグビーの若山英史選手はメダル獲得によってウィルチェアーラグビーを取り巻く環境は大きく変わったことを実感したそうですが、競技そのものの魅力や醍醐味の理解はまだこれからという話を披露。例えば、ウィルチェアーラグビーは障がいの程度によって選手は7つにクラス分けされますが、若山選手は“ローポインター”と呼ばれる障がいの重いほうから2番目の1.0クラスの選手。どうしても、障がいの軽いハイポインターのほうが運動量やスピード、ボール保持時間が長く目立ちます。その様子を彼は、「陰と陽」と表現していました。でも、ローポインターにも戦略上、相手ディフェンスのブロックなど、“いぶし銀”の役割も課せられているので、「いつか陰を陽に変えたい」という思いで日々、戦っていると話します。それに貢献できるのがメディアであり、パラスポーツの楽しさや試合結果だけでなく、競技の成り立ちや戦略なども伝えてほしいと話していました。この辺りは、私も努力したいと思います。

つづいて、有料放送WOWOW社の太田慎也チーフプロデューサーが登壇。同社は2016年から2020年までの5年計画で、世界トップのパラアスリートに密着取材したドキュメンタリーシリーズ、「WHO I AM(これが自分だ)」を制作、放送しています。詳しい内容については、今コラム202号『強烈な個性の競演!パラアスリートの魅力に迫る、ドキュメンタリー番組、WOWOWの「WHO I AM」シリーズをぜひ!』(11月13日付)をご参照いただきたいのですが、簡単にまとめると、「障がいを抱えながらスポーツで努力するパラアスリート」というステレオタイプな描き方でなく、タイトルが示すように、選手それぞれの「個性」に着目。「みんな違って当たり前。番組が、『自分』について考え、人生を輝かせ、エンジョイするきっかけとなれば」という思いが制作の根幹にあると太田氏は話しました。

また、NHK解説委員の刈谷富士雄氏は33 年間、スポーツ中継のアナウンサーと、オリンピックでは全29競技を担当したものの、パラリンピック中継の経験はゼロ。それは、パラリンピックがこれまで、福祉や生活情報系の範疇だったからだと言います。でも近年、障害者スポーツもスポーツとして伝えようと方針転換。とはいえ、最初は「障害のことも含め、どう伝えていいか分からなかった」と現場に戸惑いがあったそうです。そこで、2015年春、アナウンサーやディレクターなどが局内にパラリンピック研究会を発足させ、勉強会を開いているそうです。16年リオ大会にはアナウンサー13人が現地に飛び、7競技を中継。2020年大会には倍以上の体制を予定しており、そのために研修などで強化を図っていくことなどが紹介されました。

とにかく、本格的なパラスポーツ報道はまだ始まったばかりです。パラスポーツは魅力も多く、伝えるべきものも多いので、スポーツ、福祉、バラエティなどなど、さまざまな切り口で多くの情報発信が大切です。そうして、「パラスポーツ」が広まることは障害者や多様性についての意識変化にもつながっていくだろうと信じます。

■蜷川実花氏監修のフリーマガジン『GO Journal』創刊!

もう一つ、パラスポーツのイメージを変え、パラスポーツの新たなファンを増やすことを目的に先月創刊されたフリーマガジン『GO Journal(ゴージャーナル)』について、ご紹介します。表紙にはファッショナブルな衣装に身を包んだ、リオパラリンピック陸上銅メダリストの辻沙絵選手。他にもパラアスリートをモデルにしたアーティスティックな写真やコラムなどで構成されたグラフィック誌で、写真家の蜷川実花さんがクリエイティヴ・ディレクターとして監修しています。

『GO Journal(ゴージャーナル)』第1号を手にする、蜷川実花さん(左)とパラ陸上の辻沙絵選手

11月22日には銀座で、創刊発表会が行われました。蜷川さんは、「予想以上に立派なものに仕上がりました。パラスポーツに興味のない方に手に取ってもらいたい。『なんだろう、これ』という違和感でもいいんですけど、(パラスポーツへの興味が)広がるきっかけになれば」と制作意図を語りました。

創刊発表会に登壇した方々。前列左から、鈴木俊一東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣、『GO Journal』クリエイティヴ・ディレクター蜷川実花氏、辻沙絵選手、高橋和樹選手、森喜朗東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長、後列左から、大日本印刷浅羽信行執行役員事業部長、パラサポ山脇康会長、キヤノン中村正陽ラグビーW杯/オリンピック・パラリンピック推進プロジェクトサブチーフ常務執行役員、(撮影:星野恭子)

記念すべき第1号の表紙モデルに選ばれた辻選手は、「楽しい撮影だった」と振り返り、表紙写真については、蜷川さんから、「目の前に金メダルがあると思って、そこを睨んで」と言われて切り取られた表情なのだそうです。

辻選手の起用について蜷川さんは、リオ大会開会式出席のため降り立ったリオデジャネイロ空港で見かけた辻選手に「一目惚れ」し、「いつか撮らせて」と声をかけたことがきっかけだったそうで、その思いがこのフリーマガジン誕生にもつながりました。蜷川さんはマガジン制作について、「まずはしっかりいいものを継続させていくのが自分の役割」と意気込んでいました。

創刊発表会では、『GO Journal』誌面で被写体にもなっている、ボッチャのリオ代表、高橋和樹選手による、デモンストレーションも。アシスタントに指示を出し、補助具「ランプ」を使ってボールを転がし、目標の白球にピタリと寄せる。

同マガジンはA3 タブロイド判型で64ページと重さもずっしり、読み応えもたっぷりな作りとなっています。しかも、これが無料配布!なのです。発行は今後、半年に1回程度の予定で、国内では蔦屋書店(銀座、代官山、中目黒、京都岡崎、梅田、広島 T-SITE、六本松)などで配布中です。もし見かけたら、ぜひ手にとってじっくりと鑑賞してみてください。

また、海外に向けても、日本財団が助成する多言語発信サイト「nippon.com」で中国語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語に翻訳され、発信されるそうです。なんともスゴイ企画です。

以上、パラスポーツのイメージを変える取り組みについてリポートしました。いろいろ興味深い取り組みが広がっています。これからもぜひご注目ください!
(文・写真: 星野恭子)