ニューズオプエド

ノーボーダースポーツ詳細
2017年06月12日
「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(184) ウィルチェアーラグビーの新生日本代表、東京2020金に向けて好発進!
車いすに乗った選手が4対4で対戦する球技で、車いす同士の激しいタックルが魅力のウィルチェアーラグビー。日本チームは昨年のリオデジャネイロ・パラリンピックで初めての銅メダルを手にして以来、新たに「東京2020大会で金メダル」の目標を掲げ、さらなる強化を進めています。

今年2月にはアメリカ人のケビン・オアー氏をヘッドコーチ(HC)に迎えました。自身も車椅子バスケットボールなどで選手としてパラリンピックに出場したのち、ウィルチェアーラグビーのヘッドコーチとしてアメリカとカナダチームをパラリンピックに率いた実績ある国際経験豊富なコーチです。リオ以降、いったん解散となった日本代表は、オアーHCのもと、新メンバーも加わって互いに切磋琢磨。新生日本代表として再スタートを切っています。

そんななか今年5月末には、日本障がい者スポーツ協会が主催し、千葉市で開かれた、「ジャパンパラ競技大会」に出場。なんと、リオ金のオーストラリア、同銀のアメリカを招き、世界トップ3による対抗戦でした。結果は、3日間の予選ラウンドを経て、予選2位の日本は最終日に、まず同3位のオーストラリアとの3位決定戦を69-55で大勝。エースがケガで欠場していたとはいえ、リオ金メダリストを撃破して、日本は勢いにのります。

そうして迎えたアメリカとの決勝戦は両者とも取っては取り返す大熱戦で、前半は25-25で終了。後半もともに譲らず大接戦が展開された末に、日本は51-52で惜敗。第2位に終わったものの、現時点での手応えと課題を得る貴重な機会となりました。

ウィルチェアーラグビーは各選手が障害に応じた持ち点(0.5~3.5点)を持ち、コート上の4選手は8点以内に構成するというルールが特徴です。障害の重いローポインターから軽いハイポインターまでバランス良く選手起用しなればならず、これが戦略の醍醐味でもあります。

さらに、あまり知られていませんが、ウィルチェアーラグビーは男女混成の競技で、女子を加えた場合は一人につき、0.5点が加算されます。つまり、8.5点以内に構成できることになり、選手起用に幅が生まれ、有利となります。実はオアーHC就任後、日本代表にも初めて女子選手の倉橋香衣(かえ)選手が新加入。持ち点0.5点というローポインターの倉橋選手が加わることで、他の3選手で持ち点3、3、2といった攻撃的布陣も可能になっています。


新生日本の切り札。初の女子プレイヤーの、倉橋香衣選手(右)。

障害が最も重い0.5点プレイヤーとして献身的な守備でチームに貢献


オアーHCは相手チームの陣容に対応し、すばやい選手交代が持ち味とのこと。実際、ジャパンパラ大会期間中、的確な指示や采配が感じられたし、主力メンバーの体力消耗度も考慮しながら持ち点のバランスを考えたなかでの選手交代なども随所に見られ、ベンチワークの果たす役割が試合の行方に大きく作用することも実感しました。



新生日本代表も、各選手が守備や攻撃などそれぞれの役割を理解し、連携してノーマーク選手をつくる献身的なプレイが印象的でした。得点力のあるアメリカやオーストラリアの攻撃を的確につぶすディフェンスも光っていましたし、今後、パスの精度をあげ、戦略の熟練度があがっていけば、まだまだ面白いプレイが見られるのではないかなと伸びしろの大きさも感じました。

■見応えあるプレイは、ファン獲得の第一条件

大会には4日間を通して約4000人の観客が訪れましたが、世界トップ3による連日の熱戦は見応えあるものとなり、ウィルチェアーラグビーの魅力を広め、ファンを得る機会にもなったと思います。特に、決勝戦で繰り広げられた手に汗握る攻防は見応えたっぷりで、なかでも最終盤の後半残り1秒からはウィルチェアーラグビーの緻密な戦略性も堪能できる時間となりました。

残り1秒で得点は51-52。1点を追う日本はここから、ルールに則り、監督によるタイムアウト、選手によるタイムアウトを立て続けに要求して、落ち着いて試合を進める策にでます。ウィルチェアーラグビーでは試合中、監督によるタイムアウトを2回、選手によるタイムアウトを4回まで要求でき、日本はこの終盤までともに1回ずつ要求権が残っていたのです。

タイムアウトが明け、残りタイムはわずか0.6秒。コート内の選手がボールに触れた瞬間から計時がリスタートするため、日本はアメリカゴール前で待ち構える池崎大輔選手と羽賀理之選手に向け、コート外から強肩の池透暢主将がロングパスを投げ込む作戦に出ます。そして、「同点延長戦」への願いを込めて投げられたボールは羽賀選手に渡ったものの、ゴールラインを超えるには0.6秒は短すぎ、ゲームオーバーとなりました。

でも、無念のブザーとともに、決勝戦を見守った約1000人の観客からは大きな拍手が沸き起こりました。試合後、観客の何人かに声をかけましたが、「想像以上にタックルが激しかった」「ゲーム性があってハラハラした」など興奮さめやらない表情の方が多かったのが印象的でした。

平日2日間には近隣の小学校数校から小学生約1800人が観戦に訪れ、大きな声援を送ってくれました。これは、日本代表選手たちが大会前に学校を訪問して子どもたちと交流し、大会をPRしたことも大きかったそうです。

そんな大声援を背に、選手たちが熱く高度なパフォーマンスを繰り広げ、さらに観客が盛り上がる・・・。競技スポーツの本来あるべき姿だったと思います。

■ファン獲得のための、観客サービスも充実

パラスポーツは競技自体の認知度が低く、「ルールが分からない」「見どころは?」などの声が多く、なかなかファン獲得の壁となっていますが、ウィルチェアーラグビーは以前から、ファン獲得のための観客サービスが充実しているパラスポーツのひとつだと思います。

試合展開やルール、プレイ解説を行う場内アナウンスはプロのアナウンサーと、現役でもある峰島靖選手の掛け合いで行うスタイルが以前から定着しています。峰島選手の解説が分かりやすく、また代表選手の特徴なども詳しく、聴き応えがあります。

また、簡単な競技ガイドブックが観客に無料配布され、また、今大会PR用の新聞号外には日本代表の選手名鑑も掲載されており、競技や選手を身近に感じられる良いツールとなっていました。今大会では特に面白いなと思ったのは、大会プログラムの中に盛り込まれていた、「審判のジェスチャー」のイラスト集です。試合中、ホイッスルが鳴ったときに、審判のジェスチャーの意味が分かれば、どんなファウルがあったのかが分かり、また一歩、試合に入り込むことができるでしょう。峰島選手も、場内アナウンスの中に、「プログラムの14ページをご覧ください」と、このイラストページの情報を何度も盛り込み、観客にルールを知ってもらう努力をされていました。



大会プログラムに盛り込まれた、「審判のジェスチャー」のイラストページ

各試合の間にはウィルチェアーラグビーの体験会も開催されていました。その前の試合でプレイしていた選手の数名も参加する体験会で、今回は日本選手だけでなく、アメリカやオーストラリアのトップ選手たちも参加していました。会場での申し込み制でしたが、連日満員御礼となる人気ぶりなのもうなずけます。


実際に体験することで車いすを漕ぎながらのプレイの大変さやタックルの激しさなども体感できます。選手のパフォーマンスの凄さも分かり、試合観戦の楽しみが増し、競技を伝えるには有効な方法のひとつだと思います。

「全会場満員化」を大目標に掲げる東京パラリンピック開幕まで、あと1100日余り。でも、大会会場観戦数はまだまだ伸び悩んでいるのが現状で、パラスポーツ普及や大会PRへの努力は待ったなしです。ウィルチェアーラグビー・ジャパンパラ大会は会場満員化へのヒントがいろいろあった大会でもありました。

(文・写真:星野恭子)