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2017年03月13日
「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (173)パラリンピックの価値や魅力を伝える教育用教材、「I’m POSSIBLE」が完成。世界に先駆け、まもなく全国の小学校に配布へ
「リバースエデュケーション」という考え方をご存知でしょうか? 教育は一般的に、大人から子どもへの方向で行われますが、それとは逆方向に子どもが大人を教育するという意味です。特にパラスポーツの価値や魅力を伝えるときには、このリバースエデュケーションが高い教育効果を発揮し、パラスポーツの理解・関心を高めることに役立つと言われています。

なぜなら、大多数の人にとって“自分ごと”としてとらえにくい「障害」が関わるパラスポーツは、どうしても「かわいそう」とか「逆境を乗り越える」といった視点から観てしまいがちです。でも、子どもたちはそうした先入観がほとんどないため、パラアスリートを単純に「かっこいい」「すごい」といった憧れの目でみることができる。それは、パラアスリートの「障害に由来する、できないこと」ではなく、「運動能力や努力に基づく、できること」を正面からとらえ受け入れられるからなのだと思います。

国際パラリンピック委員会(IPC)はこのリバースエデュケーションの力を重視し、以前から学校現場でのパラリンピック教育の重要性を訴えてきました。実際、これまでパラリンピック大会を開催した国や都市では独自の教育プログラムを立ち上げ、大会PRから障害者やパラスポーツ理解へとつなげようとしてきました。たとえば、2012年ロンドン大会組織委員会は、「GET SET(準備する)」、2016年リオ大会組織委員会は「Transforma(変換)」という名称で、それぞれ教育プログラムを立ち上げ、おかげで多くの子どもたちが、そして子どもたちに感化される形で多くの大人たちが大会会場を埋め尽くすという大会成功につながったと言われています。

こうした実績に手応えを得て、IPCはさらにパラリンピックムーブメントを全世界の子どもたちを対象に広めようと、「I’m POSSIBLE(私はできる)」という教育プログラム用公認教材を開発、制作を進めています。そして、その日本語版の制作を、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が、アギトス財団(IPC関連機関。開発などを担う)と日本パラリンピック委員会との共同で行い完成させたということで、その記者発表会が2月下旬に都内で行われました。

発表会で説明された、「I’m POSSIBLE」の概要によれば、教育プログラムは教室で行う座学と競技を体験する実技で構成され、パラリンピックの歴史や競技、パラリンピックの価値などの知識を得たり、実際に競技を体験したりしながら、パラリンピックに対する興味を高め、共生社会を理解するための入り口として活用できる内容で、その日本版は国際版教材の内容を踏まえつつ、日本の教育現場で活用しやすいように改良されています。たとえば、日本の小学校高学年を対象に、実際の授業時間に合わせ1時限(45分)で完結できるよう再編集され、授業用シートや児童が書き込みを行うためのワークシートに加え、教師用のハンドブックやガイド、授業ごとの指導案などもセットになっているそうです。

実際の運用としては今年4月末には第一弾として、4授業分のセットが全国の小学校(約2万校)に配布される予定で、今後2020年に向けて続編も発表予定だそうです。さらに、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が進める教育プログラムのパラリンピック教材としても位置づけられ、同委員会ホームページ上からデジタル版のダウンロードも可能になる見込みです。

発表会に列席したIPCのフィリップ・クレイヴァン会長は、教材名の「I’m POSSIBLE」について、2014年ソチ冬季パラリンピック大会閉会式でのワンシーンを基にしていると説明しました。会場の天井に「IMPOSSIBLE(不可能)」という文字のディスプレイが掲げられていて、そこから一本の長いロープがぶら下がっています。登場した車いすアスリートが腕だけでロープを上っていき、最終的に、IとMの間に割り込むようにして、自らの体を「’(アポストロフィー)」に見立て、「IMPOSSIBLE」の文字を一瞬にして、「I’M POSSIBLE(私はできる)」へと変化させたのです。その印象的な演出の意味は、「Impossibleだと思えることも、創意工夫があれば、Possible(可能)になる」という、パラスポーツがもつ大切なメッセージを伝えたものであり、そのメッセージを教材名として採用したというのです。

パラサポの山脇康会長は、「パラリンピック競技の体験学習を通じて、気づきや発見をし、そこで感じたことや考えたことを元に、工夫することの大切さや諦めないことの大切さを学んだり、障がい者理解を深めたりしてほしい」と教材に期待を寄せていましたが、2020年東京パラリンピックの会場が満員の観客で埋め尽くされることも、その成果の大きなひとつだと思います。世界に先駆けた画期的な教材、「I’m POSSIBLE」の今後の進展と成果を、期待を込めて見守りたいと思います。

(文:星野恭子)