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2017年02月09日
「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (168) IPC、ロシアの18年冬季パラ予選出場要求を却下。ドーピング違反への厳格姿勢貫く
スポーツ界におけるドーピング違反が跡を絶ちません。つい先日1月下旬にはチームメイトの違反の余波で、ジャマイカのウサイン・ボルト選手が金メダル1個を返上することになりました。2008年北京大会のリレーメンバーのひとり、ネスタ・カーターの検体を再検査したところ、禁止薬物のメチルヘキサンアミンに陽性反応を示したからだそうです。検出技術の向上により、過去大会での違反も遡って罰せられる事例も増え、まだまだ違反者は出てきそうです。

昨年にはロシアの国ぐるみのドーピング問題が明らかになり、開幕が迫るリオ大会への強豪国の参加を巡り、世界は騒然となりました。結局、国際オリンピック委員会(IOC)は条件付きでロシア選手の五輪出場を認めましたが、国際パラリンピック委員会(IPC)は8月、ロシア・パラリンピック委員会(RPC)にIPCメンバーとしての資格停止処分を科し、リオ・パラリンピックからロシア選手を完全に締め出すという厳格な判断を下しました。

そうして、「パラリンピック競技はクリーンだ。ドーピングは許さない」という姿勢を世界に対して明確に示したIPCでしたが、今年1月29日に開いた理事会でまたも、その姿勢を貫く判断をしました。実は、RPCがピョンチャン冬季パラリンピック大会出場を目指し、その予選会に選手を出場させたいと求めていたところ、IPCはその要求を全会一致で退けたのです。IPCがRPCに課したメンバー資格回復のための要件をまだ満たしていないという理由からです。

ただし、今回の決定はピョンチャン大会出場への可能性の扉を必ずしも閉ざすものでなく、ロシアが同大会までにドーピング対策への体制改革など資格回復の要件を完全に満たせば、処分を解除するという方針もIPCは示しています。

もしそうなれば、ロシアは予選会に選手を送るか、代わりにバイパルタイト枠(招待枠)を申請するなどでピョンチャン大会出場が叶うかもしれません。まだまだロシアの動向には要注目です。

IPCがドーピング違反に厳しい理由

パラリンピック大会は近年、リハビリ目的のスポーツから競技性の高いスポーツの最高峰の祭典として、オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ世界第3位の競技大会へと発展、認知されるようになっています。それに伴い、選手の成績に応じた収入増加やステータスの向上などもあり、結果へのこだわりや勝利至上主義などの副産物も生まれています。

また、国威発揚のため国を挙げてパラリンピックに取り組む国も少なくないといった背景もあります。ロシアがいい例ですが、リオ大会も含めパラリンピックでもすでにドーピング違反者が何人も出ており、今後も増えることが懸念されるため、IPCは断固とした態度で牽制しているのです。

また、IPCがドーピング対策にシビアなのにはもう一つパラリンピック特有の理由があります。自身の障害による疾病や合併症などの治療や障害の悪化防止といった目的で、日常的に薬物を使わざるを得ないケースが少なくないからです。健康管理の理由から、オリンピック選手以上に薬物が身近な存在であり、選手にも医学的な知識が欠かせないという側面もあるからです。

治療用の薬物については事前申請による使用特例(TUE)の制度があり、「使わないと重大な障害を及ぼすと予想され」たり、「使用しても健康管理以上に競技力向上はみられない」といった条件を満たすと認められた薬物は使用しても違反とはなりません。ただし、治療目的以上に大量に使ったり、逆に違反を恐れて使用を控え健康を害したりといった誤った対応を避けるためにもドーピングについての知識を正しく得る必要があります。ドーピングは意図的でも不注意でも、違反は違反です。

日本のスポーツ界はオリンピックも含め、これまで意図的なドーピング違反者は出しておらず、反ドーピング活動を進めるにあたり、国際的にも大きく期待されています。パラスポーツについては、日本障がい者スポーツ協会が日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の加盟団体として、選手やコーチ、競技関係者などに対して講習会を開催するなどドーピング教育を積極的に進めていますが、「東京2020」の開催決定以降は特に、強化合宿などで座学の時間を設け、選手にドーピング教育を行う競技団体も増えています。

「あの選手の強さはドーピングによるものではないか」といった疑念のある試合では、選手も真剣に戦えないし、観客にとっても興ざめです。パラスポーツへの関心と人気が高まっている今こそ、ボルト選手の状況やロシア問題を他山の石として、IPCには“クリーンなパラスポーツ”を貫く強い決意と意思をこれからも期待したいです。

(文: 星野恭子)