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2018年09月05日
「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(237) 四国初開催のパラ陸上日本選手権、5600人のエールが選手の力に!「2020年以降」へのヒントにも!
香川県高松市で9月1日から2日にかけて、第29回日本パラ陸上競技選手権大会が開催され、大会史上最多となる306選手がエントリー。初日は雨模様、2日目は晴れたものの気温も高く、風も強いコンディションの中、2日間で新たにアジア記録3、日本記録15、大会記録58個が生れるなど熱戦が展開されました。



高松市内のあちこちに掲示されていた、日本パラ陸上競技選手権大会の公式ポスター。市民への大会開催のPRに役立ったほか、出場選手たちには大きな励みとなっていた(撮影:星野恭子)

 

3つ生れたアジア記録のうち2つは、女子T63クラス(片大腿義足など)走り幅跳びで誕生。7月に、前川楓選手(20/チームKAITEKI)が4m5cmをマークし、アジア記録を樹立したばかりでしたが、19歳の新星、兎澤朋美選手(日本体育大)が3回目に4m7cmを跳んで記録を更新、新女王となりました。

 

兎澤選手は2016年日体大入学を機に本格的に陸上競技を始め、急成長中です。1歳差ながら、2016年リオのパラリンピアンでもある前川選手は、「憧れでもあり、ライバルでもある。ずっと勝ちたいと思っていたので、素直に嬉しいです」と笑顔を輝かせました。

 

一方、前川選手も17年世界陸上銀メダリストの意地を見せ、4回目に大ジャンプ。でも、4m6cmとわずか1cm及ばず、2位に終わったものの、「死ぬほど悔しい。でも、今までで一番楽しい試合でした」と、こちらも笑顔で好勝負を振り返りました。

 

3つ目のアジア新はこの日(2日)、21歳の誕生日を迎えたT12(視覚障害・弱視)の佐々木真菜選手(21/東邦銀行)が女子400mで59秒07をマークして樹立しました。「58秒台を目指していたので、少し悔しい気持ちがある。課題だったスタートからの加速はよくできたが、最後100mで少し向かい風があり、後傾してロスがでたのかなと思う」と冷静にレースを分析。「私は緊張しやすいが、歓声が大きく、力になりました。課題を修正し、次のレースで58秒台を目指します」と力強く語っていました。

 

佐々木選手は福島県の盲学校を卒業後、地元の東邦銀行に入社し、陸上部に所属。オリンピックを目指す選手たちとともに練習する実業団選手です。ここ数年、自己記録更新を続ける好調の要因は「先輩たちからの刺激」など練習環境の充実も大きいと言います。

 

パラスポーツでは競技人口の少ない競技や種目も少なくありませんが、国内で切磋琢磨できる存在がいる環境は世界を見据える上で、とても重要です。2020年大会の好影響もありパラアスリートも徐々に増加。今大会でも1500mの男女T20 (知的障害)や男子T54(車いす)などをはじめ、スタートラインに並ぶ選手たちの群雄割拠ぶりに、「いったい誰が勝つんだろう」とワクワクしたレースがいくつもありました。互いに刺激し合い、どんどん上を目指してほしいです。

 

なお、10月6日にはインドネシア・ジャカルタで、パラ競技のアジア選手権がスタートします。日本のパラ陸上チームは約70選手と過去最多となる見込みです。兎澤選手や前川選手、佐々木選手など今大会で弾みをつけた代表選手たちも多く、こちらも楽しみです。

 

■大会成功につながった、高松市の取り組み

 

今回の日本選手権では選手のパフォーマンス以外にも、いろいろお伝えしたいことがありました。まず、2日間で約5600人と、パラ陸上の国内大会としてはかなり多くの観客数でした。しかも、客席で選手に声援を送るだけでなく、大会パンフレットやパラ陸上ガイドなどを熱心に読み込む観客の姿も見られ、「初めて観るパラ陸上」に関心を持っている様子が印象的でした。



日本パラ陸上競技選手権大会の会場となった屋島レクザムフィールド(香川県高松市)には連日、多くの観客が訪れ、選手のパフォーマンスを好アシスト(撮影:星野恭子)

 

大会が盛り上がった背景には、舞台となった高松市による周到な準備や告知が大きかったと思います。この日本選手権が四国で開催されるのは29回目にして初めてで、また、高松市は昨年12月に国が新設した「共生ホストタウン」として登録されたこともあり、その活動の一環として今大会が位置付けられていたこともあり、さまざまな取り組みが行われていました。

 

「共生ホストタウン」制度とは東京2020パラリンピックも見すえ、主にパラリンピアンとの交流をきっかけに障害者などが積極的に参加できる共生社会の実現を目指したユニバーサルデザインのまちづくりや心のバリアフリーに関する取り組みを促進し、また、2020大会の盛り上げを全国にも波及させようというもの。すでに高松市を含めた6つの自治体(青森県三沢市、東京都世田谷区、静岡県浜松市、兵庫県明石市、山口県宇部市)が登録されており、今後は応募状況に応じて随時、追加されるそうです。

 

ということで、高松市はパラ陸上日本選手権のPRのため、市役所をはじめ、主要駅やフェリー乗り場、商店街など街のあちこちに大会ポスターを掲示したり、大会の見どころやパラ陸上のルールなどが載った特別チラシを作製し、大会開幕2週間ほど前から市内で配布したりしていました。また、地元メディアでも事前報道も含め、連日、取り上げられていました。

 

さかのぼって2月には台湾からパラリンピアンらを招き、小学生との交流や文化体験などの事業を実施したそうです。高松市は2020年大会の際、台湾のパラ陸上選手を受け入れるホストタウンにも選ばれたことで交流事業を進めていて、今大会も台湾選手団が招聘されていました。



大会を視察した台湾選手団。事前に学校を訪問し、児童らと交流(撮影:星野恭子)

 

大会約1週間には会場となった競技場、屋島レクザムフィールドで出場選手たちの合宿も実施。合宿中、パラ選手の代表数名が市内各地の小学校10校を訪問し、競技説明や自身の経験や思いなどを語ったり、簡単な競技体験なども行っていました。子どもたちからは、「競技への思い」や「競技の難しさ」など積極的な質問も飛び、選手も「自分の障害と改めて向き合えた」「応援されて気合が入った」など、いい交流ができたようです。

 

また、市内の保育園や学校に選手応援用の幕や絵画などの制作を依頼するなど、子どもたちも事前にパラ陸上やパラスポーツに触れる時間となったようです。会場に子どもたちの姿が多かったのは学校訪問やPR活動の力も大きかったと思います。



高松市内の園児が作成した大会応援用の横断幕。「あすにむかって」と書かれたゴールテープを目指すアスリートたちの躍動感あふれる様子が生き生きと描かれている(撮影:星野恭子)

 

大会第1レースとなった男子T54の5000mを制した久保恒造選手(37/日立ソリューションズ)は、「合宿期間中にスーパーなどに行くと、『試合、がんばって』と声を掛けられることが多かった。そんなことは初めてで励みになりました」と優勝の喜びとともに話していました。長期の滞在となったことで、市民の皆さんにとってもパラアスリートと交流する機会が増え、興味や関心の醸成にも役立ったのでしょう。

 

会場となった屋島レクザムフィールドは2017年4月にリニューアルオープンしたばかり。総収容人数は6000人とコンパクトですが、駐車場から室内競技場、サブトラックまで段差なく移動できるなどバリアフリー施設。また、最寄り駅からは徒歩10分程度とアクセスも良好です。選手からは、「使いやすいし、走りやすい」という声も多かったです。



屋島レクザムフィールドの観客用トイレの案内マップ。図が浮き出た触地図に点字も併用。男女トイレ内のレイアウトが分かりやすい。(撮影:星野恭子)

 

パラスポーツや障害に対する理解を深める企画も工夫されていました。例えば、義足体験コーナーや視覚障害者が使用する白杖や手引き歩行の体験コーナーから、ボッチャ体験コーナーなど。多くの親子連れでにぎわっていました。また、「子ども記者体験」は事前に募集した小学生がパラアスリートへのインタビューや撮影を実体験する取り組み。「車いすの選手が速くてびっくり。練習の様子などが聞けて楽しかった」(小5男児)など、子どもたちにとっても、選手にとってもいい交流になったようです。



レースを終えた喜納翼選手(T54・車いす/タイヤランド)を囲み、積極的に質問する子ども記者たち(撮影:星野恭子)

 

もう一つ有意義で独自な取り組みだと思ったのは会場で配布されていたバリアフリー地図です。「CAN MAP(キャンマップ)」と名づけられたこの地図は、全国各地から訪れる選手や観客の「おもてなし」を目的に、競技場までのアクセス方法や高松市内のおすすめ店舗情報などが掲載されています。作成したのは高松市創造都市推進懇談会「U40(アンダー40)」という団体で、よりよいまちづくりのために高松市で活動する40歳以下のメンバーで構成されています。

 

地図はU40のメンバーが実際に街を歩いて集めたバリアフリー情報をもとに編集されていて、例えば、エレベータ設置箇所や「道幅が狭い」などルート上での注意点などが書かれています。店舗情報には、「スロープ/自動ドアあり」「出入り口幅90cm以上」など車いすユーザーらが利用しやすい情報などがアイコンで表現され、分かりやすいです。秀逸なのは、「店舗2階」や「段差/階段あり」といった、「バリア」情報も掲載されていること。予め状況が分かっていれば、利用の判断目安になるし、もちろん、店舗にサポートを相談することもできるでしょう。

 



大会を機に作成された高松市のバリアフリー地図「CAN MAP(キャンマップ)」。データはダウンロード可で、これからの観光客も活用できる (画像はダウンロードデータを再構成)

 

実は、この「CAN MAP」は下記のウエブサイトからデータをダウンロードでき、スマートフォンでの閲覧やA4サイズに印刷も可能です。作成したU40は、「今大会だけでなく、これから高松市を訪問される人たちの役にも立てたら」と、継続的に有効活用されることも期待しているそうです。

 

▼香川県高松市バリアフリー地図「CAN MAP」

https://u40spovol2018.wixsite.com/para2018

 

パラスポーツやパラリンピックのPRはまだまだ活発に行う必要があります。今回のパラ陸上大会PRに向けた高松市の取り組みは大いに参考になりそうです。全国各地でパラスポーツの種をまき、育てることは東京2020大会の盛り上げにはもちろん、パラスポーツの広がりを2020年以降にもつなげるために欠かせない取り組みだと思います。

 

(文・取材:星野恭子)